礼がブリアティルトへ来ることになったいきさつとか。
結局あの世界で合流させてあげることはできなかったので。

レイや利奈たちを見ると分かるけれど、本来は「いかにも女性」、「いかにも子供」、というキャラのほうが書きやすいのです。
ここまで真逆な女性というのは初で戸惑いも多いけど、その分楽しんで書けてますｗ

「兄上」

パン、と小気味良い音が机に響いた。
音の出所は封書。
ひいてはそれを机へ勢いよく置いた手。

兄と呼ばれつつも血の繋がりのない義兄は、それを見て不思議そうに尋ねた。

「なんだこれ」
「休暇届」

にっ、と笑って女は答える。
高い位置で結わえた深紅の癖毛は、その位置で結んでいるというのに毛先が背中に届いている。
実際には腰まであるだろう。
女性らしいと言えばこの上ないが、女の表情はその言葉を見事に裏切って潔い。
いや、表情だけじゃない。
動きやすさを重視した服装は、実にシンプルだ。
ばさばさしたスカートなど邪魔になるだけ。
腰に下げた剣はやや細身なれど、飾りではなく使い込まれている。
適度に筋肉の付いた全身は、一般に比べれば無骨かもしれない。
しかも趣味が鍛錬だという時点で、お世辞にも女性らしい性格とは言えないだろう。

「ちょっと長い休みが欲しい。その間の仕事は押し付ける」

きっぱりと言い切り不敵に笑うと、義兄は苦笑して受け取った。

「まぁ、色々働いてもらったからな。だが俺ではパイプが細すぎるがどうするよ」

「大丈夫、航路の申請は済ませてあるよ。代わりの人員も確保済み。各国へは雑談ついでに不在を伝えてあるから、あとは国内指示のみだね。何かあれば相談には乗るから、これを預けておくよ」

そういって差し出したのは石細工の桜花。
半透明の淡い紅水晶でできたそれには見覚えがあった。
女が常に身に着けているものと同じ細工だ。

「これ……お前が、恩人と連絡するときに使っているやつか」

女は頷く。
どちらも元はひとつの石を削って細工したもの。
同じ性質を持つものに、さらに魔法で手を加え、通信機替わりに使っているのだ。
世界を隔てても声を送れるのは過去のやり取りから実証済みで問題はない。

「ということで、後は頼む」

義兄は複雑そうに頷いた。
言い出したら聞かない妹の性格は分かり切っている。
猪突猛進、目的に向かって暴走していく。
一人で送り出すには非常に不安があったが、彼がその国を離れるわけにはいかない。
要となる３人のうち１人が不在となるならば、残り２人は留まり穴を埋め続けなければならないからだ。
だがそれも簡単なことではないだろう。
何しろ女が受け持つ仕事は、女が独自で作り上げたパイプの上に成り立っているのだ。
いくら身内とはいえ、まったく同じには動けるはずもない。

もちろん女とてそれをしっかりと理解している。
だからこその立場がある。
けれどそれでも行きたいと言うのならば、もう止めることはできない決定事項ということだろう。

「理由を聞いていいか？」

義兄の質問に、女は頷く。

「家族に会いに行ってくるよ」

その答えに義兄はなるほどと納得した。
それは女が昔から望んでいたこと。
未来から飛ばされてきた彼女には、本当の意味で一緒に育った家族は、この時代に存在してはいないけれど。
この時代にはこの時代に生きている家族がいる。
彼らとの思い出は共有できないとしても、一目会ってみたいという気持ちは消えないらしい。

「わかった、行って来い。……ああ、礼……あまり無理はするなよ」
「了解。無茶はするかもしれんが、無理はしないように心がける」

それでは意味がないじゃないか、という義兄のボヤキを笑顔でかわし、装備している武器を確認すると軽い足取りで女……礼は出て行った。
たぶんこのまま、目的の場所へと直行するのだろう。

「周囲の人間が、振り回されなきゃいいけどな」

一人残された義兄の呟きは、礼へ届くことはなく風がかき消した。